覚悟なんて




45年前、二十歳になった母に祖父から贈られた時計。
わたしの元へやってきてもう10年以上が経つ。
何度も家の中で無くなった・・・と嘆いていても、
少し経つとひょっこり見つかる。
きっとネコたちの仕業らしいのだが。

この時計には何かが宿っているのだと勝手に思っている。
わたしにとっては何ものにも代え難い御守りだと。

そんな時計を贈った当人の祖父が先日入院した。
今回は少し深刻だったし、お医者さんからも
延命治療をどうするかの問いを投げかけられて母も弟もわたしも狼狽した。
元気な時はいつも憎まれ口を叩いたり、叩かれたりだけれど、
父のいないわたしにとっては父以上の存在で
家族を長い間支えてくれた。
92歳という高齢ゆえ、いつその時が来てもおかしくはない、
と覚悟していたつもりだった。
でも、そんなことやっぱり無理で。
思い知らされた感でいっぱい。

入院した日、私は東京へ戻る日で
またすぐに帰ってくるよ、と言うと、
祖父は「死んだら何があっても帰ってきてくれ」と言った。
これは彼なりの洒落なのだが、その時は「うんうん、わかったよー」と言うのが
精一杯だった。そういう言葉で別れたことが嫌だった。
これで何かあったら一生後悔するなぁ、と実は思い悩んだ。

今日、大きい病院に一時転院したのだけれど、
少し安静にしていればまた元気になるとのことで家族みんな
胸を撫でおろした。
退院したら、祖父が大好きな牛タンをしこたま食べさせてあげようと思う。

やはり、いくつになろうとも、
覚悟なんてできない。
それに尽きる。








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